「事業パートナー」に向けたアクションプラン

「事業パートナー」に向けたアクションプラン

1.経営方針を決める

① 自営業に経営方針は必要か

「経営方針」と聞くと、従業員がたくさんいる会社や組織でもない限り、関係ないことのように思われるかもしれません。しかし、規模の大小や業種にかかわらず、事業を経営していく上で経営方針は重要な役割を果たします。

イ.経営者にとっての意義

一般の会社経営と同様に、農業経営においても、順調な時もあれば、想定外の環境の変化に見舞われることもあります。リスクを取って新たな道に進むかどうかの判断を迫られるような時が来るかもしれません。
こうした経営における難しい局面において、経営方針は立ち戻るべき原点を示し、判断の拠り所となります。

ロ.一緒に働く者にとっての意義

農家にとって、一緒に働く人といえば家族であり、わざわざ経営方針を定めて、それを共有する必要などないのではと思うかもしれません。しかし、分かり合っているつもりでも、意外と家族間で認識がズレていたりすることがよくあるものです。
経営方針を明文化し、それを共有化することによって、各々が仕事に携わる中で、それに照らし合わせて考えることができるようになります。その結果、事業活動全体に一体感が生まれてくるようになります。

② 「ワーク」と「ライフ」の将来像は一体的に描く

農家の場合、将来像として思い描く姿において、事業(ワーク)と生活(ライフ)の境目があいまいであることが少なくありません。それならば、経営方針を決めるにあたり、「ワーク」と「ライフ」双方での目指す姿を一体的に描いた上で、その実現に向けた方針に落とし込んでいくことが現実的といえるでしょう。

② 「事業パートナー」同士で等しく責任を負う

仮に、「ワーク」には夫が、「ライフ」には妻が携わることが多いとしても、「ワーク」と「ライフ」を一体的に捉えて経営方針を定める以上、それに対する責任は夫婦で等しく負うことになります。
経営方針の策定は、相手任せにすることなく、「私はこうしたい」ということをきちんと伝えて、そこに反映することが大切です。

2.役割分担を再考する

① 夫婦の労働力を「人的資源」として捉える

「ワーク」においても、また「ライフ」においても、自然に夫婦間の役割分担が出来上がっていることが多いと思われます。現在の役割分担には、それなりの合理性にもとづいて決められたものと思われますが、慣習的なものの影響を受けつつ、「何となく」決まったものも多いのではないでしょうか。
事業の生産性を向上させるためには、夫婦どちらの労働力をどこに投入することが、最も効率的かつ効果的に「人的資源」を使うことになるのか、という視点で捉える必要があります。

役割分担の見直しの例

事業戦略を立てるにあたって、経営者は「外部環境」の分析と同時に、自社の強みや課題を洗い出す「内部環境」の分析を行います。
農家にとって最も大きな内部環境要因といえば、「家族」です。家族の成長と、その構成の変化を軸に、事業展開のイメージを組み立てていきます。

従来の役割 見直しのポイント
力仕事は夫の仕事 実際に力を要する場面は限られているのでは ?
車両や機械、道具を活用することで、妻が行うこともできる のでは ?
家族の世話は妻の仕事 妻の不在時には夫が代行できるようにすることで、両者の活 動に自由度が増し、効率的な事業運営が可能になるのでは ?
地域の会合に参加するのは夫の仕事 世話好き、判断が得意、リーダーシップがあるなど、その役 割に適正があり、力を発揮しやすい方が参加すべきでは ?

② 作業と経営の両面から役割分担を行う

「ワーク」における役割分担を考えるにあたり、「作業」と「経営」の2つの観点で仕事を仕分けることが必要です。

イ.「作業」における役割分担

「作業」に該当する仕事とは、言い方を変えれば「時間労働」であり、同じ時間で効率よく仕事をこなすことが求められます。その仕事の担当を決める上では、必要な知識や技能を有しているかどうかや、その仕事に慣れているかどうかなどが判断基準となります。もちろん、「体力」も判断基準の一つになるでしょう。
なお、知識や技能が足りない部分は学習を通して補うことができますし、不慣れな部分は経験を重ねることにより、スキルアップが可能です。

ロ.「経営」における役割分担

例えば、来年の作付面積を考えたり(=経営計画)、月次の経理作業を通して収支を確認したり(=経営分析)、新しい農業設備の更新提案の検討をしたり(=投資判断)することは、「経営」に該当する仕事です。このような仕事は、1日の就労時間に占める割合としてはさほど多くはありませんが、重要度は高く、責任も重いものとなります。
このような仕事を担う上では、「適正」とともに「覚悟」も必要となりますので、夫婦で十分に話し合った上で役割を決めることが大事です。
なお、経営に関する仕事に必要な知識やスキルもまた、学習や経験を通してスキルアップすることが可能です。

③ 「ライフ」における役割分担もあわせて行う

「ワーク」と「ライフ」が一体的に運営される農家にとって、「ワーク」と同様に「ライフ」においても、夫婦間の役割分担を意図をもって組み換える必要があります。

イ.「作業」ではなく「担当」で分ける

家事の分担については、多くの場合、現在妻が担っている家事の中から、一部の「作業」を切り出して夫にやってもらうという発想になりがちです。夫側からすると「ゴミ出しはいつも自分がやっている」「風呂掃除もやっている」と色々やっている気にはなるものですが、それらに伴う「名もなき家事(※)」も含めた段取りをしているのは、妻側であることも少なくありません。
家事の役割分担は、「作業」単位でお願いするのではなく、「担当」として任せる方が家事としての品質を担保する上でも合理的といえます。

※「名もなき家事」とは
例えば夫が、「時々自分も料理をする」という場合、夫が担うのはその日のメニューを作ることだけであって、使った調味料の補充や余った食材を翌日以降にどう使うかといった段取り事は含まれていません。こうしたメインの家事のすき間を埋めるような、細かな家事のことを「名もなき家事」と呼んでいますが、この負担が意外と重いのです。「名もなき家事」も含めて夫婦で分担し合うことが重要です。

ロ.「平等」にこだわり過ぎない

「ライフ」における役割分担では、慣習的な影響もあって、どうしても妻側に多くの負担がかかりがちです。そのため、いざ、それを見直そうとする際には、過度に平等性を意識してしまいがちです。
しかし、当然ながら、夫婦間で得意不得意の分野は異なりますし、「ワーク」側で担う役割の重さも違うため、完全に平等というわけにはいきません。どの家事をどちらが担当するのかは「合理性」をもって判断し、よく話し合って決めることが大事です。

④ 柔軟な見直しのカギはコミュニケーション

「一度決めた役割分担は変えられない」ということはありません。むしろ、状況に応じて柔軟に見直しを行っていくことが、生産性を高める上では大事です。
こうした役割の見直しを行う上で欠かせないのが、普段からの夫婦間のコミュニケーションです。お互いの仕事の負担感や、新しい仕事にチャレンジしてみたいといった思いなどを、日ごろの会話の中で伝え合う習慣を作りましょう。そうすることで、役割分担における問題についても、解決に向けた話し合いが自然にできるようになります。

ある自営農家の夫婦の事例
秋田県のある自営農のAさん(男性)は、サラリーマンを経て家業の水稲事業を引き継ぎました。その後、同い年のBさん(女性)と結婚し、事業の方では新たに野菜栽培に進出していきました。野菜栽培が軌道に乗り始め、次第に夫のAさんが主に水稲を担当し、野菜栽培を妻のBさんが担当するような役割分担となりました。もちろん、季節によって両者の仕事に繁閑の差があるため、例えばコメの出荷時期にあたる秋には夫婦そろって水稲事業に携わり、逆に夫の水稲事業が閑散期に入る冬には、妻のホウレンソウ栽培を夫が手伝いつつ、会計などの事務作業を一手に担うというように、その時々の繁閑に応じて柔軟に役割分担を行っているということです。

3.労働時間と報酬のしくみを整える

① 生産性向上に不可欠な「労働時間」の概念

農業者は勤務者と比べて、「ワーク」における仕事と「ライフ」における仕事の境目があまり明確でないことが多く、ややもすると、労働時間の管理が甘くなりがちです。
また、「自分たちの時間は好きに使える」、「自分たちでやる分にはタダ」という認識の下で仕事をしていると、「労働はコストを伴うもの」という認識が希薄になり、事業経営者としての感覚を鈍らせかねません。
ワーク・ライフ・バランスの実現を通して生産性の向上を図るためには、まず、労働時間を厳密に管理するところから始めましょう。

② 労働に対する対価としての「報酬」

家族経営の農家で、給料制を取っているところはあまり多くはないでしょう。そのため、従業員を雇用する経営者のように、毎月の人件費を強く意識することはあまりないかもしれません。
しかし、事業運営上は自分たちの人件費が「コスト」であることは間違いなく、仮にそれを給与額として換算してみると、事業としての収支が合っているのかどうかが判断できます。なお、「作業」としての仕事の報酬は「時間給」で算出しますが、「経営」としての仕事の報酬は「成果給」となり、収支が合わなければ、原則としてゼロとなります。

労働に対する対価としての「報酬」

4.スキルアップを推進する

① スキルアップを事業活動における必須項目にする

生産性を上げるためには、今の仕事のやり方を改善し、より効率化を進めることが必要です。また、今よりもさらに付加価値の高い生産事業にシフトすることで、収益拡大を図ることも可能でしょう。
いずれにしても、今よりもさらに高い生産性を実現するためには、新しい技術や運営方法、あるいは消費者の嗜好や事業展開の仕方などについて、積極的に学ぶことが欠かせません。
こうしたスキルアップのための活動には、必要投資額をあらかじめ予算化しておくとともに、優先的に時間を割くように、夫婦間で取り決めておきます。「余力があればやる」のではなく、「必ずやる」こととして位置付けておきましょう。

② スキルアップを家族で支える雰囲気づくり

スキルアップには、時間の余裕もさることながら、気持ちの上でもゆとりがないと、なかなか本腰を入れて取り組むことができません。
ワーク・ライフ・バランスの実現を通じて「ライフ」を充実させつつ、妻や夫が志すスキルアップを家族みんなで応援していくような、雰囲気作りが大事です。

③ 事業経営者としてのマネジメントを学ぶ

農業活動に直接関わる知識や技能の習得には、具体的にその成果が見えやすいため、取り組みやすいものです。
一方、マネジメントのような汎用スキルの習得となると、すぐにその効果が実感できないこともあり、どうしても後回しになりがちです。
しかし、そうした事業経営者に求められるスキルを身に付け、それを事業に活かすことができれば、5 年後、10 年後の農業経営に大きな差となって表れてくることでしょう。

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