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女性農業者への労働面からの配慮

女性農業者への労働面からの配慮

国連の労働問題専門の機関として位置づけられている ILO(国際労働機関)は、様々な労働問題について審議し、条約又は勧告として参加各国に批准や遵守を求めています。このテキストに関連しているものでは、ジェンダーの平等と保護、母性保護、女性一般の保護などがあります。

女性一般の保護

① 夜間労働

「夜間における婦人の使用に関する条約」として、工業的企業に働く女性について「夜10 時より朝5時に至る時間を含む、少なくとも11時間の継続時間」の労働を禁止しました。その後、社会・経済状況の変化に対応して見直しがされ、一部の規制が緩和されています。弾力的運用ができるといっても、出産予定日前の少なくとも8週間を含む産前産後の16週間の間は適用してはならないとしています。

② 重量物運搬

「一人の労働者が運搬することを許される荷物の最大重量に関する条約」として採択されています。男女すべての労働者について、健康または安全を害する恐れのあるような重量物の運搬を禁止することが原則となっています。特に、女性と年少者については、軽量な荷物以外は人力による運搬に配置してはならないとされ、人力による運搬をさせる場合には、成年男性において許される質量(最高55kg)を相当下回るものでなければならないとされています(注:その後、ISO 規格では、成年男性でも55kgは許容されなくなっています)。

1.妊産婦と作業環境

以下の項目は、通常でも配慮すべき内容ですので、妊産婦にはより一層の配慮が必要であることを理解して下さい。「Ⅱ労働環境改善の方法」(P.9 ~)では、作業快適性を阻害する作業環境についての対策事例を挙げていますが、ここでは、母体保護の観点から記述します。

① 振動

立っているときに足から入る振動(立位全身振動)、座っているときにおしりから伝わる振動(座位全身振動)、ハンドルなどから手に伝わる振動(手腕系振動)があります。外部からの予期しない振動が身体に伝わると肉体は防御反応を起こします。通常は細胞が収縮し、血行が悪くなります。また、背骨などは椎間板損傷の恐れもあります。
胃、眼球、脳などは振動周波数によっては共振し、とても不快になります。胎児も母体の中で浮いている状態なので共振することもあるし、子宮全体が収縮すれば切迫流産の恐れもあります。昭和40年代前半には「耕耘機流早産」が多く報告されています。手腕系振動は、曝露による症状として抹消部の循環・神経・関節機能に影響を及ぼしますが、それが間接的に胎児の生育や哺育中の母体の回復に影響しているかはっきりしていません。

② 騒音

騒音は聴力への直接的な影響のほか、精神面への影響があります。振動ほどの影響は少ないと思われますが、当該時期において騒音作業が避けられない場合はイヤマフ等の使用が推奨されます。安全保護具、衛生保護具は使用当初に若干の違和感がありますが、慣れれば効果は確実です。「イヤマフでは静かすぎて不安になる」という意見もありますが、一般職場では、雑談しながらの就業や BGM 以外の放送等を聞くことはあり得ないので、騒音曝露の少ない環境下での作業が日常的であることを理解させて、健康被害の発生を避ける必要があります。

③ 粉塵

農業粉塵を大量に吸入した場合や皮膚への付着によって、呼吸器障害やアレルギー疾患が現れることが判明しています。妊娠・哺育期間中は、特にせき込むときは腰、子宮への影響があるので、やむを得ず粉塵環境下で作業する場合には、防塵マスクの使用が必須となります。

④ 作業姿勢

どんな時期でも腰や下腹部への負担が大きくなるような姿勢をとらないように配慮する必要があります。特に、妊娠中は子宮下垂につながるような姿勢を避けるようにすることが必須です。具体的には重量物の上げ下ろし、抱え、押し引きなど、腹腔内圧が上昇する姿勢を避けましょう。

⑤ 農薬

病虫害防除に用いるもので、粉末、霧状の農薬を吸い込んだり、皮膚に付着した場合に少なからず母体及び胎児に影響があることを忘れてはいけません。母乳に混入して、乳児の発育に影響を及ぼした事例も報告されています。

2. 改善のためにすること

実際の生活・作業に当たり注意することは、ILO等の指針をそのまま活用するのではなく、個々の経営体の実態に合わせて弾力的な運用を行うことです。弾力的な運用とは、基本線は守るものの細部については若干の変更を認めるということですが、産後休暇の短縮や重量物運搬の担当など、きつい側への運用は避けねばなりません。日本人の習性として、基準を最低限守ればよい、罰則のないルールは無視してもよい、という傾向があります。ルールは自主的に守り、それによって自らの安全衛生を確保することを期待しているから、強制的な締め付けを行わないのであり、野放しであるという理解・行動をさせてはいけません。

3. 農作業への復帰に際して

妊娠から出産を経て農作業に復帰するまで、1年半以上かかると思います。現在の技術はその間にどんどん進歩しています。妊娠前に扱っていた機械は更新されているかもしれませんし、栽培様式も変わっているかもしれません。農産物の出荷流通方式も変化しているかもしれません。職場復帰に際して、技術面の感覚取り戻しと農業経営の変化をしっかりと理解させるような教育体制も重要になります。子供が幼児といわれる年齢の間は、周囲の人の目が届く範囲に置くことが必要ですが、農業機械や農具の周辺には近寄らせないことも言い聞かせる必要があります。これらのことは、両親祖父母のみならず経営体の従事者全体が守らなければなりません。

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