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コラム:農作業事故を詳しく分析!

コラム:農作業事故を詳しく分析!

コラム1 人はなぜ失敗するのか

この世に失敗をしたことのない人はまずいません。
それでも日々無事に過ごしています。なぜ、意識しないうちに失敗するのかを説明します。

1. ヒューマンエラーとは

例えば、「トラクターを運転中に道路の端によりすぎて路肩が崩れ転倒した」というような事故があったとしましょう。しかしこれでは「なぜ、端によってしまったのか」「なぜ路肩が崩れやすくなっていたのか」「運転者はその地点が危険であることを教えられていたり、知っていただろうか」「どうしたら同じような事故を起こさないで済むだろうか」ということは分かりません。つまり、直接原因の解明だけでは事故調査をしたことにはならないのです。再発防止のためには、人間の行動特性を理解しておくことが大切です。上記の事故概要が次のように分析できれば、失敗の大元は何となく理解されるのではないでしょうか。
「連日の耕耘作業で疲れがたまり、作業後に帰宅するとき眠気に襲われ、集中力が低下していた。数日前の大雨で路肩が柔らかくなっていたのは朝に気が付いていたが、眠気に負けてしまった。ブレーキの左右連結も確認せず走行し、気が付いたら、路肩から転落していた。」
写真が裏焼きだったという失敗でも、風景写真ならば大きな問題にはなりませんが、レントゲン写真を裏表反対に見てしまったら大失敗となります(デジタル化された現代では考えられないことですが)。許されるエラーと許されないエラーはどこで違ってくるのでしょうか。

1.ヒューマンエラーの分類

エラーをした時の言い訳の言葉を考えてみましょう。うっかり、勘違い、何気なく、度忘れ、見逃し、不注意、知らなかった、ミス、ドジ、チョンボ、など色々あります。「わざと」はエラーとは言いません。
一般的な報告には5W1Hというキーワードが盛り込まれますが、これは結果からの追求しかできず、再発防止にはつながりにくいと言われています。行動に基づく分類として

  • ・省略(やるべき行動を抜かす)又は脱落(やるべき動作を行わない)のエラー
  • ・選択のエラー(操作をしたが、誤った、余計なことをした)
  • ・順序のエラー(手順書に従わなかった)
  • ・時間のエラー(操作のタイミングが適正でなかった)

がありますが、これは結果からの分類で発生のプロセスを把握することはできません。

[ 情報処理過程のエラー ]
  • ・入力エラー / 認知・確認のミス(感覚、知覚の際のエラー、見間違い、聞き間違い等)
  • ・判断・決定のミス
    (情報の媒介処理の段階のエラー、判断の狂い、意図的な規制違反など)
    懸命ミス…忠実、まじめに取り組みすぎる
    確信ミス…疑いもなく間違いに突き進む
    焦燥ミス…時間との競争で判断を誤る
    放心ミス…単調、退屈、心配などが意識水準を低下させる
    多忙ミス…困難な業務を短時間でこなそうとする
    無知ミス…知識・理解の不足から起こる
  • ・操作・動作のミス / 出力エラー
    (身体による反応を起こす際のエラー、未熟な操作、動作の失敗等)

がありますが、これはエラー発生過程の分類しかできず、エラーの内的・外的要因を把握する必要があります。
心理的背景の分類として

  • ・判断の甘さ(相手は知っているはず)
  • ・習慣的操作(反射的に操作した)
  • ・注意転換の遅れ(ほかの仕事に熱中しすぎ)
  • ・思い込み・省略(いつもと同じと信じていた)
  • ・情報収集の誤り(予測や先入観が優先した)

の方法もありますが、分析には経験を積む必要があります。

2.人は失敗をする動物だ

上記のようにエラーは多面的に分類できますが、不安全行動を防ぐことはできるのでしょうか。
私たちはしょっちゅうミスをしています。しかし、

  • ・ところかまわずでたらめにミスを起こしているわけではありません。
    →どんな場合にミスを犯しやすいかを知ることが問題解決につながります。
  • ・故意にミスを犯すわけではありません。
    →ミスを犯す瞬間には自分の不安全行動を意識することがありません。
  • ・つまらぬミスは繰り返しても手痛いミスはめったに起こしません。
  • ・「うっかり」の心理は複雑で、大脳の活動という点からいえば活発に活動している時ではなく、むしろ休息気味のリラックスした状態のときに発生する割合が高いことがわかっています。

このようにミスの中身がわかってきますが、痛い思いをする当事者だけに責任があるわけではありません。「知らなかった(無知ミス)」という背景には、作業の経験が少なかったり、監督・指導者から教育されていなかった場合もあります。また、当然やるべきことをやらなかったとか、やってはいけないことをやってしまったというミスも作業者のエラーとして取り上げられますが、この場合でも、機械操作や作業のやり方に作業ミスを誘発しやすい要因がある場合も、しばしば見られます。このような場合には、作業者のミスを直接指摘しても再発防止にはつながりにくくなります。
では、なぜ、失敗するのでしょうか。それには「人」という優れた生物の長所と短所があり、時として、長所が逆に弱点となりエラーにつながるといわれています。
エラーを起こすのは、大脳の情報処理活動度の大小や、生理学的視点からの意識レベルの在り方で変わってきます。エラーの起こりやすさを生理学的視点から5段階に分けると表3のようになります。
フェーズ0というのは意識を失っている状態ですから、作業安全を考える対象にはなりません。フェーズⅠからフェーズⅣが作業中の意識水準になります。フェーズⅣでは信頼性は低下します。エラーの確率が最も小さいのがフェーズⅢです。しかし、大脳への負担が大きいため、この状態を長い時間維持することはできません。リラックスした状態のフェーズⅡと緊張した状態のフェーズⅢとを、作業の主要なポイントに応じて切り替えていくことが望ましいところです。
フェーズⅢでの作業が安全のためには必要ですが、長い時間緊張を維持はできません。無理に続けようとすると疲労のためにフェーズⅠに落ち、思わぬところで失敗が起こります。一群の作業時間の3/4くらいはフェーズⅡであり、慣れた定常作業はほとんどⅡで処理されますから、フェーズⅡの状態でも危険等の予知・識別ができるようシステム設計するのが人間工学の考え方です。しかし、どんなに作業環境を整えてもフェーズⅡでは対応できない場面も出てきます。このようなときは状況に応じてフェーズⅢに切り替えられるようセルフコントロールされていることが望まれ、指差呼称、深呼吸をする、周囲を見回す、などが役に立ちます。

表3 意識レベルの段階分け(橋本)

フェーズ 意識のモード 注意の作用 生理的状態 信頼性
0 無意識、失神 ゼロ 睡眠、脳発作 ゼロ
I 意識ボケ 不注意 疲労、単調、居眠り、酒酔い 0.9 以下
II リラックス 受動的、心の内方に向かう 安静起居・休息時、定例作業時 0.99 ~ 0.99999
III 明晰 能動的、前向き、注意野も広い 積極活動時 0.999999 以上
IV 過緊張 一点に凝集、判断停止 感情興奮時、慌て→パニック 0.9 以下

3. 不安全行動はなぜ起こる

農作業事故の背景には当事者以外も含まれることは理解できたでしょう。しかし、「痛い目」にあっているのは当事者です。不安全行動といわれるものがどのような理由で起きるのか、考えましょう。

作業者に関する問題
意識レベルが低下している事故が多い / 単純なうっかりミスが多い / 基本動作が守られていない / マンネリ化した誤操作が多い
教育に関する問題
緊急時の操作ミスを防止する教育の在り方 / 指差呼称が徹底しない場合の対策 / 浸透させる安全教育の在り方
組織・管理の在り方
安全に関する職場管理とは何か /ヒヤリ・ハット事例が素直に報告されない場合の改善
設計の問題
設計時のエラーが作業ミスを誘発している / 設計時の使用目的以外に使用されている
農作業固有の問題
同じ作業の連続日数が短い / 次のシーズンまでに情報が継続されない

1.不安全行動を起こさないための工夫

  • ・精神的な安全教育は効果が薄い
    →「間違えないようにしろ」は効き目がない。「誤った動作」の背後にある共通要因を探り出して対策を講じなければなりません。
  • ・「はず」「だろう」「決め込み」は危険
    →フェーズⅡからⅢに戻れる心掛けが大切です。
  • ・初心者の指導には時間をかける
    →初心者は経験が少ないので、いざというときに適切な対処ができません。指導者は焦らず、じっくりと理解させる必要があります。
  • ・組織内でのストレスも影響する
    →人-機械系の相性だけでなく、人-人系の問題も安全確保に大きく影響します。

2.事後対策から予防安全へ

医者の世界で予防医学と臨床医学があるように、生活の中でも予防安全と事後安全の考えがあります。事故が起こってから反省し、対策を施すより、事故が発生しないようにあらかじめ対策を練り、実践するほうが時間的にも経費的にも損失が小さいことは理解できるでしょう。

コラム2 直接原因より間接原因を調べよう

いったん事故が発生すると、原因を調べます。その多くが、直接原因の究明だけで終わり、再発防止につながる背景要因を分析することが少ないです。再発防止につながる原因調査の方法を理解しましょう。
例えば、「小雨の降る夕方に片側2車線の道路を自動車で移動中に交差点の直前で赤信号に従って停車しようとした前車に追突した」という事故を想定しましょう。直接原因は、前の車のブレーキ操作の確認が遅れた、必要な車間距離を保っていなかった。いわゆる、「前方不注意」で片づけられそうです。これで処理されると、「前方に注意を払いましょう」というだけになりそうで、再発防止にはつながりません。
考えられる間接原因は何でしょうか。一つには「見えていたけど視ていなかった」といわれるように、進行前方の横断歩道用信号が点滅を始めていたのを視ていない / 赤信号に伴って、前前車のブレーキ点灯が道路に反射していたのを見逃した /
帰宅後の予定が頭の中の大半を占め、手足は運転していても頭は運転していなかった / 道路わきのレストランの混雑具合が気になってわき見をしていたなどがあげられます。誰もが犯しやすい失敗です。
見えていたけど視ていなかった、聞こえていたけど聴いていなかった、という現象があり、これらは、情報として入ったものが正常に認知機能に働きかけていないから起こるもので、この辺りが「人間はミスをする」と言われる所以でもあります。
「誰もが犯しやすいのだから、私がミスをしてもしょうがない」という考えは捨てて下さい。予防安全が実践できるためのヒントを以下に述べます。

1.  危険の予知・予測(KYT)

事故の芽を摘む工夫をしましょうということです。世の中は事故の芽だらけです。その芽が小さいうちに気付いて摘むか避けることができれば無事に済ませられるのです。
建設現場では、朝礼の時に体操の後、班長から当日の仕事の内容を説明し、作業者からその作業について考えられる危険を提案させ、全員で災害を避けるための行動を確認するとともに、物理的対策が必要な箇所には対策を施してから作業を開始する取り決めになっています。
農業の場合は、法人であってもひとり作業が多いので、意見を出し合うことはできないかもしれません。しかし、ひとりであっても、仕事はじめから次の休憩までの段取りを想定して考えられる事故の芽を想定し、摘んだり回避することを考えます。その際に、考えるだけでなく口に出して問題点や解決策などを唱えましょう。大きな独り言ですが、遠慮することはありません。前日と同じ機械を使って隣の圃場で作業する場合でも、気象条件の違い、体調の違い、交通量の違い、登下校時間などを考慮すれば、「昨日と同じだから問題ない」という考えは成立しません。特に、環境条件は常に変化しています。昨日
/ さっき大丈夫だったからではなく、ひょっとすると?という意識が大切です。作業にあたってのKYTを身に着けることができれば、日常生活でも自然とKYTを行えるようになり、家庭内事故も防ぐことが可能になります。
KYTは決して臆病な行動ではありません。石橋をたたいても渡らないという野球選手の話がありましたが、事故の芽を感じていながら無視するような行動は避けなければなりません。

2. リスクアセスメント

リスクアセスメントという言葉を聞いたことがあるでしょう。農業でも無縁ではありません。
リスクアセスメントは、職場の潜在的な危険性または有害性を見つけ出し、これを除去、低減するための手法です。これの必要性は以下の通りです。
従来の労働災害防止対策は、発生した労働災害の原因を調査し、類似災害の再発防止対策を確立し、各職場に徹底していく手法が基本でした。しかし、災害が発生していない職場であっても潜在的な危険性や有害性は存在しており、これが放置されると、いつかは労働災害が発生する可能性がありました。技術の進展により、多種多様な機械設備や化学物質等が生産現場で見られるようになり、その危険性や有害性が多様化してきました。これからの安全衛生対策は、自主的に職場の潜在的な危険性や有害性を見つけ出し、事前に的確な対策を講じることが不可欠であり、これに応えたのが職場のリスクアセスメントです。

(1)リスクアセスメントの進め方と効果

①危険性または有害性の特定

機械・設備、原材料、作業行動や環境などについて危険性または有害性を特定します。
ここでの危険性または有害性とは、労働者に負傷や疾病をもたらすもの・状況のことで、作業者が接近することにより危険な状態が発生することが想定されるものをいいます。

②危険性または有害性ごとのリスクの見積もり

特定したすべての危険性または有害性についてリスクの見積もりを行います。リスクの見積もりは特定された危険性または有害性によって生じる恐れのある負傷又は疾病の重篤度と発生可能性の度合いの両者の組み合わせを数値表現する方法か数値表現しない方法で行います。

③リスク低減のための優先度の設定・リスク低減措置内容の検討

危険性または有害性について、それぞれ見積もられたリスクに基づいて優先度を設定します。

④リスクの低減措置の実施

リスク優先度の設定の結果に従い、リスクの除去や低減措置を実施します。優先順位は、1)設計や計画の段階における危険な作業の廃止、変更等、2)インターロックの設置等の工学的対策、3)マニュアルの整備等の管理的対策、4)個人用保護具の使用です。
リスクアセスメント導入による効果は以下のものが期待されます。

  • イ.職場のリスクが明確になる
    →危険の芽を事前に摘むことができます。
  • ロ.リスクに対する認識を共有できる
    →リスクアセスメントは現場の作業者の参加を得て、管理監督者とともに進めるので、職場全体の安全衛生のリスクに対する共通の認識を持つことができるようになります。
  • ハ.安全衛生対策の合理的な優先順位が決定できる
    →リスクアセスメントの結果を踏まえ、事業者は許容できないリスクは低減させる必要がありますが、リスクの見積もり結果等によりその優先順位を決めることができます。
  • ニ.残留リスクに対して「守るべき決め事」の理由が明確になる
    →技術的、時間的、経済的にすぐに適切なリスク低減措置ができない場合、暫定的な管理的措置を講じたうえで、対応を作業者の注意にゆだねることになります。この場合、リスクアセスメントに作業者が参加していると、なぜ、注意して作業しなければならないかの理由が理解されているので、守るべき決め事が守られるようになります。
  • ホ.職場全員が参加することにより「危険」に対する感受性が高まる
    →リスクアセスメントを職場全体で行うため、業務経験が浅い作業者も潜在化している危険性または有害性を感じることができるようになります。

コラム3 ヒヤリ・ハットの活用を

普段誰しもが事故防止に気を配っているものの、「気が付いてみたら、事故になっていた」というのが現実です。事故を減らすことの意識を高めるのは大切ですが、実際に事故を起こすと、その直接・間接の原因を自己分析することは難しいことです。
その一方、日常的に体験している事故寸前の「ヒヤリ・ハット体験」は本人にとって比較的簡単に、原因分析となぜ回避できたのかの分析ができます。その概要を仲間と共有することによって、地域の事故が発生しやすい時間帯や場所などが特定され、必要な対策を確認し実践することにより、ヒヤリ・ハット体験が減少し、事故にもつながりにくくなってきます。ヒヤリ・ハットを体験した場合は、隠すことなく体験を公表し、地域・仲間の安全向上につなげるようにしましょう。頻繁にヒヤリ・ハットを体験している人は「それが当たり前」という考えになりがちですが、一歩間違えれば大事故にもなりかねません。
「おっとー、危なかった」というときはヒヤリ・ハットです。
ヒヤリ・ハットは仲間が共通体験をしていることが多いようです。体験はなるべく早く報告し、情報共有することが望ましいのですが、頻繁に会合を開くことも難しいでしょう。
体験を簡単なメモにして「目安箱」に投函し、定期的に取り出して体験者の報告と仲間からの意見を求め、再発防止につなげる工夫をしましょう。メモには、事故にならずにヒヤリですんだ理由なども書き加えましょう。また、ヒヤリ・ハット体験に対して、管理者は当事者を決して攻めてはいけません。
「Ⅰ労働環境改善のねらい」(P.1
~)でもふれたように、死亡事故の発生割合は従事者10万人当たり20件弱です。逆に考えれば、10万人当たり99,980件は死亡事故にはなっていないのです。さらに、9万件程度は軽傷でもなく、ヒヤリ体験もなく済んでいることになります。「今日も無事に済んだ」だけでなく、「あの時、こんな気配りをした」「点検整備を行った」「若干体調不良だったので、いつもよりゆっくり行動した」ということが無事につながっているのです。発生した事故の反省も大切ですが、「今日一日無事だった」ことの再点検も習慣付けましょう。

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