労務管理改善ツール、就農適性判断ツールの利用

農業法人で話をきくと、経営者と従業員の意識差を感じることがあります。特に、農業法人の状況をみると、経営者の高齢化が進み、70歳前後の経営者が増える一方で、雇用される従業員は20代から30代が中心となっています。経営者と従業員の年齢差をみると、親よりも離れた年齢差がある場合が多く、経営者との世代間ギャップが存在することがあります。そのため、法人内での意思疎通が綿密な場合でも、互いの意識が想像以上に伝わっていないことが多くみられます。

また、農業法人の従業員規模によっても経営者と従業員の意識差は変わってきます。従業員が少ない時には、経営者は従業員と接する機会も多く、コミュニケーションも密にとることができます。だが、経営規模が拡大し、従業員数が増えてくると、経営者が従業員全員と綿密な意思疎通を行うことは困難となります。その結果、女性従業員を始めとして、従業員がどのような不満を抱えているのか、経営者には伝わりづらい状況が生じてきます。

従業員の定着を図るために農業法人においてどのような対策をとるべきでしょうか。農業法人における労務管理上の課題を示すツールが、農研機構マネジメント技術プロジェクトで開発した職務満足度分析ツールです。この分析ツールでは、動機づけ・衛生理論に基づいて、農業法人用のアンケート項目を事前に設定しており、従業員にアンケートを実施し、そのデータをパソコンに入力することで人材育成・労務管理の課題を視覚化することができます。さらにツールで示された優先的に取り組むべき課題について検討することで、PDCAサイクルに沿った労務管理の改善が可能となります。

もう一つ紹介したいツールが、就農方式の適性判断ツールです。これは新規就農希望者の就農方式の適性を判断するために作ったツールで、就農・就職希望者、従業員の性格判断に活用することができます。女性の就農希望者の場合、自分の性格がどのような特徴があるのか、どのような就農経路が向いているのかについて、自分でも整理できておらず、よくわからない場合があります。その結果、適性と異なる就農経路を選択したために、短期間で就農を断念するケースがしばしばみられるようです。また、自分の希望に合う研修先、就農先を探して、いくつかの研修先、就農先を渡り歩く就農希望者も多くおり、受け入れ側にとっても継続的な雇用ができずに、雇用に関わる事務作業や農作業の指導が無駄になるケースが散見されます。そこで、このようなミスマッチを少しでも軽減するために、一般企業などで就職時に行う適性試験などを参考にして、就農希望者、従業員向けの適性判断ツールを作成しました。このツールの特徴は、就農希望者、もしくは就職希望者の性格を把握することにあります。そのため、このテストでは正解はなく、あくまで利用者の性格の特徴と、どのような就農ルートが向いているかについて示しています。このツールはMicrosoft Office Excelのワークシートを利用しており25の項目に回答することで就農希望者の性格の特徴についてわかるようにしています(所要時間は10~15分程度です)。

今後はこのような分析ツールなどを用いながら、女性就農希望者の就農促進、定着を図っていくことが求められます。

職務満足度分析ツール
https://fmrp.dc.affrc.go.jp/publish/management/job_satisfaction/
就農方式の適性判断ツール 
https://fmrp.dc.affrc.go.jp/publish/newfarmer/support_guidebook_2/

農研機構 農業経営戦略部 組織管理ユニット長 澤田 守

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