農業法人における女性従業員の人材育成

農業法人の従業員をみると、女性の比率が高いのが目につきます。農林水産省の新規就農者調査をみると、若年女性の新規就農者の半数は雇用就農者が占めており、女性にとって農業法人への就職は、就農するための主要な選択肢の一つになっています。また、法人側にとっても、消費者への直売、加工などの多角化の進展により、女性からの意見が重要になってきており、女性従業員を積極的に雇用する法人経営が増加しています。

農業法人で働く女性従業員について話を聞くと、独立就農も考えてはみたものの、女性一人では就農のハードルが高いことが法人就職の理由の一つとなっています。実際、就職後についても、力作業などについて他の従業員の協力を得ることができるなど、法人経営で働く利点も多くあるようです。

また、女性従業員の多くは、生産に対して強い意欲を持っており、農産物生産に携われること自体が、仕事のモチベーションにつながっている印象があります。その点では、今後、女性がより活躍できるような体制整備が重要になってきます。

その際に考慮すべきことは、女性が働きやすい職場になっているかどうかという点です。農業法人で話を伺うと、複数の女性従業員が勤務し、上司・同僚に、悩みなどを相談しやすい環境にあることが、仕事を進めるうえでの不安感の払拭につながっている面がありました。農業法人によっては、職場内の女子会を積極的に実施したり、また、昼食などの休憩場所は男女別々に設けることで、日々の悩みなどを話せる場をつくっている経営もありました。それ以外にも、トイレ、休憩室などをはじめとした労働環境の整備、厚生年金などの社会保険の整備も重要な課題になります。

近年の農業の現場では、機械のオペレーターとして活躍している女性従業員も多くみられるようになってきました。もちろん力作業など、男性に頼らざるを得ない作業もいまだ多く存在します。ただ、それは工夫次第で改善が可能です。各種農作業の工程をもう一度見直し、女性が働きやすい環境整備が重要になります。ある法人では、女性が機械のオペレーターができるように、肥料袋を軽くするなど、様々な工夫をとっていました。特に、女性従業員の中には、機械作業に従事することを希望するものも多く存在します。このような人材を受け入れていくためにも、短期的な効率性だけを重視するのではなく、多様な人材が働ける環境をつくることが求められます。

女性を雇用する上でもう一つの重要な課題は、ワークライフバランスを含めた多様なキャリアパスを構築する必要がある点です。具体的には、女性の場合、妊娠、出産、育児、介護によるキャリアの中断や昇進を望まないキャリア等、様々なキャリアパスがあります。事前に多様なキャリアパスを想定し、それに対応できる職場環境を整えることで、女性側も安心感を持って勤務することが可能になります。ある法人では、職場に幼児同伴で来られるように、キッチンや育児スペースを作り、育児が必要な女性でも働きやすい職場環境をつくっていました。特に、農業の場合は、多種多様な仕事が存在するため、従業員の生活状況に応じた様々な仕事への関わり方が提示できる可能性を有しています。農業に携わる女性をさらに増やしていくためにも、農業法人内での労働環境の改善を図ることが求められます。

農研機構 農業経営戦略部 組織管理ユニット長 澤田 守

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