農作業事故は多いのか少ないのか

農作業事故に限らず、交通事故や家庭内事故が減りません。誰しもが事故を起こすまいと努力していますが、様々な要因が絡んで事故になっているのが現状です。

平成29年のデータになりますが、農作業事故の死亡は304件で大半が1件一人なので304人と考えてください。一方、交通事故死者は3694人です。実数で見ると、農作業事故死亡者は交通事故死亡者の1/12程度です。「騒ぐほどではないな」とお考えかもしれませんが、かかわっている人数が同じではないので、決して小さい数字ではないのです。いろいろな統計では、分母を共通にして比較します。ここでは、関係者10万人当たりで考えます。

すると、農業では農業従事者10万人当たり16.7人となります。交通事故は全国民がかかわっているので、10万人当たり2.9人となります。つまり、分母を共通にすると5倍以上の事故率になっています。さらに、交通事故は24時間いつでも発生しています。農作業は季節によって作業時間に長短がありますが、平均的に1日8時間とすると、16.7かける3イコール約50となり、びっくりするほどの事故率となります。これは、かつて危険業種といわれた建設業よりもはるかに大きくなっています。実数だけで事故の多少を判断してはいけないことが理解できたでしょう。

死亡事故の数字を上げましたが、負傷事故も多く発生しています。サンプル調査によると、65歳以上の高齢農業者は負傷事故が少なく、死亡事故が多い。65歳未満の農業者では死亡事故は少ないが負傷事故が多いことがわかっています。高齢者は加齢による心身諸機能の低下でとっさの行動ができなかったり、不安全行動をしたりするためと考えられます。

「大変だ」で済ませないように、メーカー、試験研究機関、行政などが協力して事故減少に取り組んでいます。事故の原因は様々ですが、「痛い目に合うのは、エンドユーザーです」

機械についている安全装備を正しく使用すること、作業安全の指針を守ること、近隣で事故を起こさない工夫をすることが大切になっています。そのためには、「基本に忠実」であることと、「事故の芽を摘む工夫」をすることです。

人間工学専門家 農学博士 石川文武

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