農業経営における人事管理の課題
農業法人が持続的に発展していくためには、従業員の人材確保、育成が大きな課題となります。これまでの農業経営においては、家族内での後継者育成が主体であり、経営外部から人材を採用し、管理者層まで育成していく視点が弱い傾向にありました。人事管理上の課題について、従業員を雇用する農業経営を例にすると、図1のように示すことができます。
経営外部から人材を確保・育成するには、以下のような課題があります。第一に新卒希望者の採用難です。若年層の人口減少などにより、就職希望者が減少し、希望者を見つけ出すことが困難になっています。さらに、若年層に関しては売り手市場のために、他産業との競合により採用が難しくなるケースが増加しています。2023年に公益社団法人日本農業法人協会が実施した畜産法人を対象としたアンケート結果(回答数138件、回答率35%)をみると、直近3年間の正社員(新卒)の採用について「予定した人数を全て採用できた」と回答する経営は30%にとどまります。「採用はしたが予定数に満たなかった」が30%、「募集したが採用できなかった」が12%となっており、募集はしたものの、採用者を確保できなかった経営が多くなっています。他産業との人材確保競争が激しくなる中で、農業への就職希望者を増やすことが必要になっています。
第二に、離職率の高さです。離職に関しては、入社数年で辞める場合もありますが、管理者層まで育成した従業員が退職する事例もみられます。短期的な視点だけではなく、長期的な視点でいかに組織内に定着させるかが課題となります。
第三に、内部昇進者が少ない点です。組織内で人材を育成するためには、入社後、管理者層に内部昇進させる必要があります。しかし、早期離職などにより管理者層まで育成できないケースや、農作業従事者の中には管理者層への昇進を断るケースもあり、農場長などの管理者層の育成・確保が難しくなっています。管理者層にあげる人材がそもそもみつからないという声もよくきかれます。経営者にとって右腕となる人材を確保するためにも、管理者層の育成が重要な課題となります。
第四に、管理者層の中途採用の課題です。農業の場合、外部労働市場がほぼ存在しておらず、経営外部から管理者層などの人材を見つけ出すことは容易ではありません。そのため、内部労働市場の中で管理者層を育成せざるを得ないケースが多くなっています。今後、雇用型農業経営の増加によって、即戦力の中途採用者のニーズが高まることが予想され、外部労働市場についても整備していくことが必要になっています。
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
中日本農業研究センター 転換畑研究領域
畑輪作システムグループ長補佐
澤田 守