農業法人における人材ポートフォリオの実態

前回のコラム「農業法人における人材ポートフォリオ決定の課題」で紹介したように、経営者にとって組織内の人材ポートフォリオの決定は重要な意思決定となります。農業法人の雇用区分を雇用期間による正規雇用者と非正規雇用者の2区分でとらえた場合、経営成長の段階に応じて主要な労働力の構成が変化していくと考えられます。経営成長の段階に応じて、まず「経営者層のみで営農する法人」、次に「非正規雇用者のみを雇う法人」、最後に「正規雇用者のみを雇う法人」または「正規雇用者と非正規雇用者を雇う法人」に至る事例がみられます。これらの法人において、雇用区分間での「職務上の役割」、すなわち「組織階層の中の位置付け」や「仕事の範囲」にはどのような傾向があるのでしょうか。

筆者が東北地方のある県内全域の農業法人を対象に行ったアンケート調査では(Hayakawa,2024)、正規雇用者と非正規雇用者の人数割合の大小の傾向に基づいて人材ポートフォリオを3つの雇用類型から定義し、正社員割合が多い「正規雇用活用型」、非正社員割合が多い「非正規雇用活用型」の法人、それらの割合が同等に近い「正規+非正規雇用活用型」に分類しました。また、各農業法人における正規雇用者と非正規雇用者の「職務上の役割」については、「組織階層」(作業計画作成、作業指示、現場作業)および「部門」(農作業、食品加工、販売・配達、事務・経理)を調べました。

アンケート調査の結果から、農業法人において人的資源管理が適切に設計されるためには、経営者自身の努力とあわせて、行政やコンサルティング企業などの外部機関・専門家からのアドバイスや支援も効果的であり、そのポイントは以下の通りです。

「正規雇用活用型」の農業法人においては、(1)作業計画作成と作業指示を円滑に行えるように経営者に対する管理能力開発が重要であり、(2)農畜産物生産以外への経営多角化の度合いに応じて、非正規雇用者に対する食品加工または販売・配達または事務・経理に関わる能力開発が必要である傾向が分かりました。

「非正規雇用活用型」の農業法人では、(1)経営を特に長期的に支えていく若年層の正規雇用者について30代の新規採用と20代の離職防止の支援が求められること、(2)事務・経理業務の外部機関への円滑な委託や情報通信技術を用いた業務効率化の支援が必要であることが示唆されました。

「正規+非正規雇用活用型」の農業法人については、(1)若年層の正規雇用者に対する中間管理職としての能力開発が必要であること、(2)非正規雇用者の職務が事務・経理など農業生産の周辺部にまで拡大しており幅広い能力開発の機会提供が重要であることが示されました。

以上のような傾向を踏まえて、経営者が経営成長の段階を意識してどの類型の人材ポートフォリオであるかを意識した上で適切な経営判断を行い、必要に応じて外部機関からのアドバイスや支援の機会を設けることも大切です。人材ポートフォリオの考え方を適切な経営の意思決定につなげていくためには、まず雇用区分ごとに求められる人材の特性や能力を明確にすることが肝要で、加えてその能力を高める方法を検討していくプロセスが重要となります。

(参考文献)
Hayakawa, K. (2024) Employee Attributes in Human Resource Portfolios of Agricultural Corporations: An Exploratory Survey in Miyagi Prefecture, Japan. Journal of Farm Management Economics, 55, 21-40.

公立大学法人宮城大学 食産業学群
助教 早川 紘平