公正採用選考の重要性と留意点

規模の大きな事業所では、採用の専任者を配置していますが、多くの中堅中小規模の事業所では、他の業務と兼任あるいは役員管理職クラスの方が担当しており、採用選考は不慣れで難しいと感じる業務の一つです。そんな中、採用選考に関して注意しなければならない大事なことは、日本国憲法第22 条において、基本的人権の一つとして「職業選択の自由」を応募者に保障しているということです。これに対して雇用する側には、採用方針・採用基準・採否の決定など、「採用の自由」が認められています。しかし「採用の自由」は、応募者の基本的人権を侵してまで認められているわけではありません。採用選考を行うときは人間尊重の精神、すなわち、応募者の基本的人権の尊重が担保されていなければならないのです。

「職業選択の自由」とは「就職の機会均等」が保障されなければならないということですから、誰でも自由に自分の適性・能力に応じて職業を選べるということで、そのため雇用する側は、応募者に広く門戸を開き、適性や能力に基づいた評価基準による「公正な採用選考」を行うことが求められています。また、日本国憲法第14 条では、基本的人権の一つとして全ての人に「法の下の平等」を保障しており、採用選考の場においても、人種・信条・性別・社会的身分・門地などによる差別があってはならず、適性や能力に基づいた評価基準により行われることが求められます。ごく限られた人にしか門戸が開かれていなのであれば、「就職の機会均等」が実現できません。求人条件に合致する全ての人が応募できるよう配慮が必要です。

雇用主は、採用方針・採用基準・採否の決定など、「採用の自由」が認められていますので、適性や能力に基づいた評価基準に基づき、応募者が、職務遂行上に必要な適性・能力をもっているかどうかを、厳しい視点で見極めることが重要です。本籍地や家族の職業など「本人に責任のない事項」や、宗教や支持政党など本来自由であるべき事項や思想・信条などは、本人が職務を遂行できるかどうかの見極めには全く関係しません。適性と能力に関係のないことを採用基準としないことは当然のことですが、採用基準としないつもりでも、応募用紙に記載させ、あるいは面接時に質問すれば、結果として採否決定に影響を与えることとなり、就職差別につながるおそれが多分にあります。

採用活動の目的は、職務遂行上必要な適性・能力をもっている人材を自社に取り込むことにあります。採用活動の重要性を鑑みれば、時間がないからという理由で簡単な面接だけで採否を決定することなど本末転倒でまったく意味のないことです。応募者から見れば、採用側が面接だけで採否を決める姿勢に疑問を持ち、自身への期待度が低いと段階で判断し早期に転職を考えることに繋がりかねません。専任の担当者を配置できなくても、採用方法や採用基準に工夫を凝らし、筆記試験や作文、複数面接など可能な限りの最善の採用選考を目指さなければ、本来の目的は達成されないと思います。

社会保険労務士 矢島友幸