ワーク・ライフ・バランスについて知りたい

1.ワーク・ライフ・バランスが注目される背景

① 労働力人口の減少と女性活躍推進

日本の人口は、2008年をピークに減少に転じており、2016年時点での65歳以上の高齢者人口は、労働力人口の11.8%を占めるまでになっています。人口の減少と高齢化の進行は労働力の減衰につながり、農業をはじめあらゆる産業に深刻な影響を及ぼしかねません。 そこで、これまで以上に女性の労働参画を促すために、働きやすい環境を整える動きの一環として、「ワーク・ライフ・バランス」という考え方が注目されるようになりました。

労働力人口に占める高齢化の推移

労働力人口に占める高齢化の推移
資料:総務省「労働力調査」(年齢階級別労働力人口及び労働力人口比率)より内閣府作成 注 1)「労働力人口」とは、15 歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせたものをいう。 注2)平成 23 年は岩手県、宮城県及び福島県において調査実施が一時困難となったため、補完的に推計した値を用いている。

出典:平成29年版高齢社会白書(内閣府)

② 求められる生産性の向上

ワーク・ライフ・バランスに取り組むことで、女性にとってより働きやすい環境が整備され、それによって労働力人口を下支えするとともに、生産性の向上も期待されます。 たとえ将来的には労働力人口の減少が不可避だとしても、生産性を引き上げることができればトータルでの生産能力を維持することができます。
労働力人口に占める高齢化の推移

③ ワーク・ライフ・バランスにおける農業者の課題

「農業者」には、企業や団体などで働く「勤務者」とは異なる特有の事情があり、ワーク・ライフ・バランスを実現する上での課題となることがあります。

イ.農繁期と農閑期の働き方の差が大きい 農業は、作物ごとに季節による繁閑の差が大きく、またその日の天候によっても仕事の仕方が大きく変わるため、勤務者と比べると労働時間の管理が難しい面があります。

ロ.家族経営ゆえの労働コストに対する認識の甘さ 農業法人に勤務する場合を除けば、農業者は自営業者またはその家族であることがほとんどです。 そのため、身内の労働に対するコスト意識が希薄になりやすく、結果的に労働時間の管理がルーズになりがちです。

ハ.伝統的な性別による役割分業観 農業者は一般的に地方在住者が多く、そこでは伝統的な「しきたり」が色濃く残っているケースが少なくありません。 また、コミュニティから受ける影響力も都市部と比べるとはるかに大きいため、どうしても「保守的な女性の役割」を強いられがちです。

ニ.勤務者と比べると仕事復帰のハードルは低い伝統的な性別による役割分業観 出産後の仕事復帰においては、勤務者と比べて農業者は勤務スタイルの自由度が高く、業務内容の調整もしやすいため、子育てと仕事を同時並行で行うことも可能です。 子育てに関する家族や地域住民の支援を受けやすいという点も、農業者ならではのメリットといえるでしょう。

2.ワーク・ライフ・バランスが目指す姿

① 誤解されやすいワーク・ライフ・バランスの定義

「ワーク・ライフ・バランス」を、「仕事の比重を下げて、生活をより重視していこうとする考え方」だと勘違いしている人が少なくありません。 しかし、本来の「ワーク・ライフ・バランス」とは、仕事と生活のどちらか一方を犠牲にするものではなく、それぞれを充実させつつ、双方によい影響が生まれるような好循環を目指す考え方なのです。
間違った認識の例
「ワーク・ライフ・バランスを実現するために、仕事の時間は○時間までとし、プライベートの時間を○時間以上確保するように指導している」 「ワーク・ライフ・バランスとは、仕事も生活も “均等” に力を入れていくことを理想とする考え方である」

② 「仕事」と「生活」の相乗効果を目指す

どのような職種であっても、仕事ばかりの毎日になってしまうと、その仕事自体の質が落ちてしまうものです。 生活の時間を充実させることで頭がリフレッシュされ、発想力が広がり、また人との接触を通じて刺激を受けることができます。 こうした生活における「インプット」があってはじめて、仕事での「アウトプット」の質が高まるのです。

③ 家庭内での「理解」と「工夫」が不可欠

ワーク・ライフ・バランスを具体的に実行するためには、家族全体でその意義を理解することが欠かせません。また、それを具体化する上では、役割分担の変更やパートタイマーの活用、従来のやり方の合理化や、機械化・システム化といった工夫も必要となります。 まずは、こうした議論を家族内で遠慮なくできることが大事だと言えます。

3.ワーク・ライフ・バランスで実現する生産性向上

① 「ライフ」で生まれた余裕を自己投資に使う

ワーク・ライフ・バランスによって生まれた「生活」における余裕時間を使って、自身のスキルアップを図ることは、「ワーク」における生産性向上にとても有意義です。 仕事から離れた時間を使って、書籍を読んだり、セミナーに参加したりすることで、普段の仕事の中では習得できないようなスキルを身に付けることができます。それを仕事に活かすことができれば、さらに高い生産性が実現され、より一層の「余裕」を生み出す好循環が生まれます。

② 効率化だけでなく付加価値も大事

仕事の生産性を高めるためには、仕事の“効率化”を図るだけでなく、仕事から得られる“付加価値”を高めることも大事です。 消費者が何を求めているのかを見極めるための「マーケティングスキル」や、ビジネスとして成り立たせるための基礎となる「会計スキル」、さらに、商談や販売の場で魅力的に商品をアピールするための「プレゼンテーションスキル」などは、農業の付価値を高める上で必須のビジネススキルと言えるでしょう。

③ 育児休暇は絶好のスキルアップ期間

スキルアップの分野によっては、ある程度まとまった学習期間を必要とするものもありますが、働きながらだとなかなか着手しづらいのもまた事実です。例えば、女性にとって避けて通れない出産・育児における休暇期間は、仕事を離れて集中して学習に専念できるまたとないチャンスとなります。 こうした機会を有効に活用し、復帰後の「ワーク」でのさらなる活躍に向けてスキルアップを図ることも、生産性向上にプラスとなるでしょう。

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