組織的な運営体制づくり

組織的な運営体制づくり

1.事業拡大を見越した組織体制

① そもそも組織とは何か

農業法人を機能的に運営していくためには、「組織的な体制」を構築することが欠かせません。では、そもそも、その「組織」とはどのようなものを指すのでしょうか。
例えば、「集団」という言葉との違いを考えてみましょう。「組織」も「集団」も何かを目的とした人たちが集まって構成されているという点では共通しています。
それに加えて「組織」では、効率的に機能させるために「役割」が各構成メンバーに与えられていて、かつ、その目的の達成のために構成メンバーの行動が「統制」されている、というところに違いがあります。

「組織」であるための要素

  • ・構成メンバーが共通の「目的」を持っている
  • ・構成メンバーに「役割」が与えられている
  • ・目的を達成するための行動が「統制」されている

こうした「組織」であるための要素があいまいなまま集団活動をしていると、非効率な運営になってしまったり、無責任な仕事の仕方を放置してしまったりすることにもなりかねません。

② ヨコの分業とタテの分業

事業が拡大してくると、同じ仕事は同じ人がまとめてやる方が、より効率的に運営できるようになります。このように仕事を「種類」によって分けていくことを「ヨコ」の分業といいます。
一方、同じ仕事を複数の人で行うにあたり、誰かをリーダー役に任命し、チーム全体の作業管理を任せることによって、より統制が利かせやすくなります。このように仕事での「権限」の有無で分けることを「タテ」の分業といいます。

2種類の「分業」

  • ・「生産」「管理」「販売」などの仕事を「種類」で分けるのが【ヨコの分業】
  • ・「管理者」「リーダー」「一般」のように「権限」の有無や範囲で分けるのが【タテの分業】

③ 組織体制づくり

生産を伴う事業体における最もシンプルな組織体制図は、下記のようなものになることが一般的です。

多くの法人組織が、最初は起業した本人が代表者であり、かつ全ての業務を自らが行う形でスタートします。
事業の拡大を図るにあたっては、まず生産能力を引き上げるための人材を雇い入れます。続いてそれを販売するために、その道に通じた人材を採用するなどして販売を強化します。いずれも事業の拡大に伴って業務量が増え、また複雑化するに従って、「生産部門」「販売部門」のような形で組織化されていきます。
組織が大きくなると、従業員の管理作業も増え、また、組織運営のための事務作業も多くなります。これまで経営者自身(またはその配偶者)で全て行っていた管理業務は、専門の従業員を雇って行うようになり、経営者自身は経営に直接関わる意思決定に専念するようになっていきます。
以上は一例ではありますが、事業の拡大を志向する上では、いつ頃にどのような組織体制に移行していくかをあらかじめ想定しておくことが大事です。

④ 業務分掌

組織体制が整ったら、そこに所属する人の役割を定義することが必要です。組織における、それぞれのポジションにおいて果たすべき職責と、それを果たす上で与えられる権限とを明記し、「業務分掌規程」および「業務分掌一覧表」にすることで、従業員に求められる仕事の範囲と責任を明確にすることができます。
もちろん、業務分掌を定義したからといってその通りにすぐに機能するわけではありませんが、各従業員に何が求められ、それに対して今は何が足りないのかが明確になり、今後の組織づくりや人材育成における標準とすることができます。

2.事業拡大に合わせた採用と雇用形態

① 採用方法の多様化

農業法人で働く人材の調達手段といえば、かつては縁故採用がほとんどを占めていた時代もありましたが、最近では一般企業と同様に、ハローワークや民間の求人サイトを通して従業員を募集することも珍しくはありません。
また、自社のホームページを立ち上げている法人であれば、そこで従業員募集をかける方法もあります。まずは求人者にアクセスしてもらうことが大前提にはなりますが、求人サイトと比べて提供できる情報に制約が少ないため、より自社の魅力を丁寧にアピールできるメリットがあります。さらに、農業を仕事にしたい人を対象にしたセミナーやイベントも頻繁に開催されており、それらに出展することで、就農希望者との接点を持つこともできます。
いずれにしても、まずは農業法人側で希望する人材の要件や勤務条件を明確にした上で、応募ニーズとのすり合わせを行っていくことが重要です。

従業員の求人方法

求人方法 合計(%) 個人経営(%) 法人経営(%)
1. 新規就農相談センター 21.9 19.2 23.2
2. 会社のホームページ 10.2 6.0 12.1
3. 知人等の紹介 45.3 50.6 42.9
4. ハローワーク 60.6 54.0 63.8
5. 学校 18.3 9.8 22.3
6. 新農業人フェアなどの就農相談会 13.7 7.5 16.6
7. 求人雑誌 3.5 1.5 4.5
8. 求人サイト 8.7 7.9 9.1
9. 折込チラシ 4.1 1.9 5.2
10. その他 4.0 4.2 3.9

出典:2013 年農業法人等従業員雇用定着のためのアンケート調査(全国農業会議所)

② 採用面接時のポイント

農業法人の採用面接に応募してくる女性は、「仕事そのもの」についてはもちろんのことですが、「仕事と家事の両立ができるか」についても強い関心を持って臨んでいます。採用面接時には、そうした状況も含めてヒアリングを行うとともに、会社側としてどういう位置付けで働いてもらいたいと思っているかという、「会社側の期待」を伝えることも大切です。

採用面接時にヒアリングしておきたいこと

  • ・家族(パートナーや両親)の状況
  • ・自身と家族(特に子供)の健康状態
  • ・残業や休日出勤などの時間外労働の対応可否
  • ・現在や将来の仕事に対する意向
  • ・想定するライフイベントや希望するライフスタイル

③ 業務に合わせた雇用形態

イ.正社員としての雇用

人を雇って事業を行う以上、農業においても他産業と同様に「労働基準法」が適用されます。なお、農業は自然条件の影響を大きく受けることから、労働時間や休憩・休日に関する規定については適用を除外されていますが、深夜労働については一般企業同様に割増賃金が適用されます。
なお、昨今の人材不足を鑑みると、一般企業と大きく乖離した雇用条件では人材の確保が難しく、繁忙期であっても一定レベルの休暇取得ができるようにするなど、他産業に大きく劣らない労務条件を基本に運用を管理することが現実的だと考えます。

ロ.非正規雇用としての雇用

繁閑の差の激しい農業法人では、通年雇用が前提となる正社員だけでなく、繁忙期にのみ勤務してもらう非正規雇用者も組み合わせて使うことが欠かせません。なお、非正規雇用とは、有期労働契約での雇用形態を指し、「パートタイマー」、「アルバイト」、「契約社員」等があります。
ただし、これらの呼称に対して法的な定義があるわけではなく、いずれの場合であっても、契約時に「労働契約期間」「勤務地」「勤務時間・休日」「賃金」「業務内容」等の条件について合意を得た上で雇用する必要があります。

農業労働力(雇用者に占める常雇いと臨時雇いの人数)
農業地域 雇用者 常雇い 臨時雇い
雇い入れた
実経営体数
人数 雇い入れた
実経営体数
人数 雇い入れた
実経営体数
人数
単位 千経営体 千人 千経営体 千人 千経営体 千人
全国 350.2 2,701.1 67.3 240.3 327.5 2,460.8
北海道 20.7 272.6 7.4 28.0 18.6 244.6
都府県 329.5 2,428.6 59.8 212.4 308.9 2,216.2
東北 72.8 553.7 9.5 27.7 70.5 526.0
北陸 20.6 146.1 3.1 14.8 20.1 131.3
関東・東山 71.5 609.2 16.9 60.2 65.2 549.0
東海 25.5 150.4 8.7 26.9 21.3 123.5
近畿 25.2 125.7 3.2 10.5 24.1 115.2
中国 22.8 129.5 3.3 10.7 21.5 118.8
四国 21.6 194.0 3.7 11.4 20.5 182.6
九州 65.9 499.7 10.9 46.9 62.1 452.8

出典:平成29年農業構造動態調査(農林水産省)

3.人材の高度利用と多能工化

① 雇用と生産性を両立するために

人を雇用して業務を行うにあたり、経営者が最も心を砕くのが、「ムリ」「ムラ」「ムダ」のない人の働かせ方でしょう。
まず、従業員の雇用を守るためには安定的に仕事を提供する必要がありますが、仕事の方は繁閑の差があり、その仕事内容も季節に応じて変化していきます。また、雇用の定着化を図る上では働き方改革のご時世でもあり、農繁期といえども週に 1 度は休みを取らせることが必要でしょう。従業員に成長機会を与えたり、モチベーションにも気を配ることが欠かせません。
こうした労務上の様々な課題に対し、切り札となるのが人材の「多能工化」です。

② 多能工化のメリットとは

多能工化のねらいは、ずばり「作業工程優先の仕事の進め方」を徹底することです。
農業は天候との戦いであり、タイムリーに必要な作業に人を集中投下する必要があります。また、農業機械の台数や使用時間も限られているため、使える時にいつでも使えるようスタンバイしておくことが求められます。
こうした、作業工程を優先した人の取り回しを人のムダを発生させないで行うために、人材の多能工化が図られるのです。いわば、「人」に「仕事」をあてがうのではなく、「仕事」に「人」をあてがうという発想に切り替えることでもあります。

③ 多能工化による副次的な効果

多能工化は、生産性の向上のほかにも以下のような副次的な効果もあります。

イ.仕事の属人化の解消

多能工化を進める過程においては、ある人が持っている仕事のやり方を教えられるように「可視化」することが欠かせません。これを通じて、仕事のスキルやノウハウの、特定の人への属人化を防ぐことができます。

ロ.モチベーションの向上

同じ仕事ばかりを繰り返していると、次第に飽きてきて仕事の品質の低下を招きかねません。定期的に異なる仕事に携わることで刺激となり、モチベーションの維持につながる効果があります。

ハ.仕事の全体観の習得

様々な仕事に携わることによって、仕事全体の流れを掴みやすくなります。
また、普段とは異なる仕事を通じて、他の部門の苦労や改善点を知る機会にもなります。

④ 多能工化の具体的事例

特に女性の場合、育児や家事との兼ね合いから仕事を休まなくてはならない日が多く発生しがちです。こうした問題も、多能工化の推進によって克服することができます。

事例① ~子育て優先の方針で、休みを相互にカバー~

岩手県の野菜を中心としたある農業法人では、従業員の4分の3が女性で構成されており、中には子育て中の人も少なくありません。主力人材である女性たちが安心して働けるためには、必要な時に休みが取りやすい体制にすることが不可欠と考えました。
そこで、1人が複数の作業をできるように多能工化を進め、誰かが休みでも必ず別の人がカバーできる体制を作り上げました。

事例② ~現場を知ることが自部署の仕事につながる~

青森県の生産から加工までを手掛けるある農業法人は、従業員のうち8割を女性が占めており、加工食品のヒットで現在15億円以上の売上を誇る規模にまで成長しました。組織化も進み、従業員は「生産」「開発」「加工」「販売」「輸出」のいずれかの部署に所属していますが、完全にその部署に専業するのではなく、「開発」や「販売」などの従業員も手が空けば「生産」や「加工」の現場に入るような作業体制となっています。これは、「現場を知ることが、開発や販売につながる」という方針のもとで行われているということです。

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