農業の働き方改革へ、家族経営協定の出番!

◇家族農業の現場の状況を踏まえて

家族農業版の「働き方改革」に関するセミナーが、(一社)日本農業法人協会の主催で、全国各ブロックで開催され、2019年度は長野(2019年11月)・新潟(2020年1月)の2会場で、私は微力ながら議論のコーディネート役を担当した。
このセミナーでは、農業者が夫妻で参加する形をとり、だからこそ家族農業の現場の状況がより鮮明に浮かび上がった。
例えば、夫は生産部門、妻は販売や家事の担当というケースでは、妻がいわばオフの時間でも、「夫が畑で仕事をしている間は休めず、結果的に二人とも労働負担が大きくなる」という声があった。また、別の夫妻からは、種蒔きの際に十分な計画を立てずに、同一品目の作付を進めてきた傾向があり、「トウモロコシの収穫期などは、夫が夜明け前から畑に入り、過重労働の期間が約2カ月に及ぶ」と、妻が指摘したケースがあった。
さらに、妻が第1児を出産して以来、育児のことを考慮して、二人で農作業体系の立て直しを進めてきたと話す、ブロッコリー農家の夫妻もいた。
以上3組の夫妻の例を取り上げたが、働き方改革への関心事は、正に三者三様である。

◇働き方改革への課題の明確化と具体策の展望

家族農業は多様性に富み、その働き方改革の実現をめぐっては、各農家において家族構成員が互いに現状を見つめ直し、①問題の所在、②目標とすべき姿、③それに向けた改善への短期・長期の取り組み方を、具体的に考えて行く必要がある。
前述の2カ所のセミナーでも、各農家の直面する課題が明確に示されたことで、参加した夫妻ごとの、あるいは、参加者全体での討論において、第1に、家族内での継続的な話し合いの場づくりの必要性を強く認識する声が上がった。第2に、働き方改革を進める具体策として例えば、①労働日誌の記帳による労働時間の点検、②生産品目ごとの収益性を踏まえて、家族の農業労働を仮に時給換算する試みを通じて、各品目の最適な作付計画の検討を行うことなどの議論ができた。
第3に、働き方改革を支える背景として、そもそも家族各人のモチベーションの向上を重視し、夫妻間で相手のやる気を引き立てる配慮や工夫も話題となり、また、長期的な視点に立って、農業に従事する家族各人の退職金の積み立てを提起する発言もあった。
いずれも夫妻の話し合いを出発点に、働き方改革の取り組みを展望する機会となった。

◇話し合いをベースに家族経営協定の活用へ

さて、このように、夫妻間もしくは家族内での、話し合いをベースとして、経営や生活をめぐる現状確認と、改善策や将来への夢を描き、その内容を文書化する取り組みを、家族経営協定と称して、農村現場では以前から普及活動が行われてきた。この取り組みを、昨今の働き方改革を推進する手法としても広く筆者はお勧めしたい。
家族経営協定は、決して文書化ありきではない。家族構成員間で協議を重ね、口頭で合意したルールの実行を先行して、家族内での締結への機運を醸成しつつ、時機をとらえて文書協定を作ることが、むしろ効果的な場合が多いと考える。
家族経営協定は、その前史の親子契約等の時代から数えると、半世紀以上の普及の経過がある。その中で、農業後継者の育成、農業経営の法人化の促進、夫妻間相互に共同経営者の立場を築くことなど、様々な場面に対応する媒体として活用されてきた。
令和という新時代を歩む今、働き方改革の観点からも、家族経営協定は、多分に出番を迎えていると言えよう。

東京農業大学国際食農科学科 准教授 五條 満義